烏賊の塩辛が見に行った映画や展覧会の感想など、日々感じたことを徒然に書いていきます。


by ika-no-shiokara
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ピアノの歴史

みなとみらいホール(小ホール)で行われたイベント「ピアノの歴史」に行った。

このイベントはピアノが生まれてから現代に至るまでの歴史を、各時代に作られたピアノ(の復刻版)を使って当時のピアノ用の作品を演奏することによりたどるという、とても魅力的な企画だ。第2期を含めて8回のイベントにより300年の歴史をたどるという、今回がその第1回だった。

最初に「キー・ノート・レクチャー」と称して松本彰新潟大学教授によりピアノの歴史の概説があった。鍵盤楽器としては15世紀にパイプオルガンが最初に生まれた。パイプを用いるこの楽器は「管楽器」であったが、その後「弦楽器」たるチェンバロ・クラヴィコードが使われるようになる。チェンバロが音の強弱を付けにくい欠点があったのに比べ、クラヴィコードは音の強弱や微妙なニュアンスを出すのに優れていたが音が小さいことが欠点だった。(ここで、実際に舞台に並べられた現代ピアノ・チェンバロ・クラヴィコードの弾き比べが行われた。百聞は一見に如かず、というが、百聞は1聴に如かずと思わずうなずく。)ハンマーで弦をたたく「弦楽器ー打楽器」たるピアノが発明されると、最初は「新型チェンバロ」としてチェンバロと並行して使われたが、やがて主流を歩む。クラヴィコードは目立たない存在のようだが、それでもワーグナーの時代になっても彼は作曲時にはクラヴィコードを使っていたらしい、という話は知らなかった。

1時間のレクチャーの後、休憩時間にチェンバロが休憩室に移動され、このイベントを企画した渡辺順生氏がみずからチェンバロの仕組みを回りに集まった聴衆に説明する。弦が3セットあって、2セットの鍵盤でいろいろな演奏の仕方ができることを実演によりわかりやすく解説された。

休憩後がいよいよピアノの歴史本題である。舞台上には18世紀イタリアでバルトロメオ・クリストフォリにより作られた最初期のピアノの「拡大復刻版」が置かれ、渡辺氏の講義とチェンバリストの大塚直哉氏による演奏が交互に行われた。この楽器を製作した久保田彰氏も舞台に呼ばれる。クリストフォリはハンマーの回転により音を出すというピアノの原理を発明した。なるほど、音を聞いて見ると一見チェンバロ風に見える楽器だがやはりピアノらしい響きを持っている。この楽器と同時代のスカルラッティの曲が演奏された。ホロビッツのCDで親しんできた曲がずいぶん印象が異なるものだ。(こちらの方がオリジナルに近いのだろうが。)演奏した大塚氏いわく、普段チェンバロを弾いているので18世紀当時の演奏家と同じ感覚で新鮮な感動があったという。
これに続いてドイツで鍵盤付ダルシマー開発競争が行われる中で、ジルバーマンが現われる。J.S.バッハに自作のピアノを弾かせたところ「鍵盤が重い」と不満を言われたジルバーマンは、その言葉に奮起し、10年後にクリストフォリの模倣に加えてダンパー・リフティング機構を考案し、現代のピアノに繋がる楽器を生み出す。ちょうどその頃バッハが作曲していた平均率第2巻はその楽器を使って作られたはず。久保田氏が自作のピアノにダンバーをオフにする仕掛けを取り付け、大塚氏が平均率第2巻を弾く。当然ながら先ほどのスカルラッティに比べ、残響音が長く残ったロマンチックな演奏になった。何か歴史をタネにした実験をやっているようで、わくわくした。大塚氏は話をしているときの印象と同じく、演奏する時にもとても丁寧な端正な演奏をする。歴史的ピアノとよく合って好ましい。
最後にJ.S.バッハの音楽の捧げ物が弾かれてこの回が締めくくられた。フリードリヒ大王からもらったテーマによりバッハが即興演奏したものを元とするこの曲は、聞くものにバッハの超人的な才能を感じさせずにはおらない。どんな楽器でも楽しめるであろうこの曲を歴史的ピアノで聴くのは逆に新鮮に感じられた。学生時代、弦楽合奏団でよく弾いた曲だった。

素敵なイベントはあっという間に終わってしまった。今後7回このようなイベントが続くとのことで、とても楽しみだ。スケジュールが合えばまて来て見ようと思った。
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by ika-no-shiokara | 2006-12-16 23:59 | クラシック音楽