烏賊の塩辛が見に行った映画や展覧会の感想など、日々感じたことを徒然に書いていきます。


by ika-no-shiokara
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日本の歴史をよみなおす

網野善彦「日本の歴史をよみなおす(全)」を読んだ。
日本の歴史をよみなおす (全) | 商品情報(書籍)

本書は高名な歴史家である網野氏が、一般の読者を対象に(特に氏が勤務していた神奈川大学の学生を念頭に?)わかりやすく、しかも氏の問題意識を鮮明にして書かれた作品で、非常に興味深く読んだ。

すぐれた本というのは、主張が明確で、具体的な根拠が明記されており、誰にもわかりやすいことが条件だと思うが、本書はまさにそのすべてを満たしている。例えば、網野氏が強調する「非農業民」の位置づけにしても、同氏が常民文化研究所の仕事として携わった時国家文書の具体的な事例から、非常に説得力に富んだ説明が書かれているので、読者の誰もが納得感を得られたのではないだろうか。本書は学術書でないこともあって、網野氏の直接の専門領域をはるかに超えて、表題の通り日本史を俯瞰した内容になっている。普通学者であればここまで踏み込んだ記述をすることを躊躇すると思うのだが、網野氏の勇気にはおどろくばかりだ。ただ、歴史家である網野氏は非専門領域であっても具体的な研究などを踏まえているはずで、小説家や思想家がイマジネーションを元に発言する(それはそれで興味深いものもあるが)のとは違った説得力がある。歴史学に限ったことではないのだろうが、すぐれた構想力に基づいた地道な研究が一番重要なのだろう。

先入観を捨てて、柔軟な考え方をしなければいけないことを改めて本書から教えられたように思う。
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by ika-no-shiokara | 2007-07-22 08:41 | 歴史

寝ても覚めても本の虫

児玉清「寝ても覚めても本の虫」(新潮文庫)を読んだ。
寝ても覚めても本の虫 | 商品情報(書籍)

本書は、俳優の児玉清氏がハマッてきた小説を次から次へと紹介したもの。その殆どが欧米のエンターテインメント系の小説である。児玉氏は子供のころからとにかく本が好きだったそうで、岩波文庫の名作などは片端から読破したそうだ。成人して俳優の卵だった頃、28万円(当時の月収の3倍)もする全集本を購入し奥さんに呆れられたこともあるという。その後欧米のエンターテインメント系の小説に目覚めた児玉氏だったが、翻訳が発売されるたびに夢中で読破していった結果、読むものがなくなってしまい、その後は原書のハードカバーを購入して読むようになったという。

あなたの一番好きな仕事は、と娘に聞かれて「本の虫になること」と答えたのはカール・マルクスだったが、確かに世の中にこんな楽しいことはないだろう。現代では本のほかにもいろいろなメディアが作られ、選択の幅は確かに増えたが、依然として世界中でたくさんの本が書かれ、多くの人に読まれている。それにしても売れっ子の俳優・司会者の児玉氏によくそんなに本を読む時間があったものだ。やはり好きなことなら時間を作ろうと思えば作れるのだろうか。(本書を読んでいても、飛行機の中で夢中で読んだ、などと児玉氏が時間を見つけては読書に励んでいる様が垣間見られる。)

最近は英語の本を読むこともなくなり、時々仕事で英語の文書を読んでいても英語力の低下を痛感している。児玉氏のようにハードカバーとはいかないが、ペーパーバックでも買ってみようかしらん。
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by ika-no-shiokara | 2007-07-22 08:05 | その他

ピアノの歴史 ショパン

みなとみらい小ホールで「ピアノの歴史 第6回 ポーランドの憂鬱~ショパンとその周辺」を聴いた。

今回舞台の中央に鎮座するのは1834年プレイエル製のピアノ。マホガニーでできた美しい楽器で、保存状態も良く制作当時の部品の大半がまだ残っているという。ショパンが最晩年に使っていたものと同じ、当時の同社の最高級モデルだ。ショパンはプレイエルのピアノを最も愛した。前回シューベルトの回に解説されたエラールのダブル・エスケープメントは確かに連打を容易にし、ピアノの表現力を格段に拡大したが、サロンで繊細な表現を演奏するのを好んだショパンにとっては、シングル・エスケープメントのプレイエルのピアノの方が、自分が表現したいと思っている感覚を直接ハンマーに伝えられるような気がして、好ましく感じられたという。
このピアノは、今回出演したピアニストの有田千代子さんの有田家が所有するピアノだとのこと。博物館などではなく個人に所有され、大切に使われているという意味でも大変貴重な存在で、本日実際にそれが演奏されるのを聴ける素晴らしい機会となった。

さて、ショパンを特徴づけるのは、彼の祖国ポーランドに対する情熱である。周知のように、彼の祖国ポーランドは列強により段階的に領土を分割させられ、ついに国そのものが消滅してしまう。彼はパリに亡命するが、生涯帰国することはできなかった。彼と同じようにパリに亡命したポーランド人が約7000人おり、ポーランドのロマン主義は亡命ポーランド人が集まるサロンで花開いた。ショパンは音楽の分野でその一翼を担った。このレクチャー・コンサートでは、ショパンの作品からマズルカ・ポロネーズ・ノクターンを1、2曲ずつ選んで演奏した。マズルカは、マズルというポーランドの舞踊に特徴的なリズムを持ったもの。3拍子でアクセントが2・3拍目に置かれ、低温の持続音が鳴り響くのが特徴。ポロネーズは、ゆったりとした優雅な舞踏。実際にポロネーズを踊っている映画のシーンが上演されたのでよくわかった。(本日演奏された幻想ポロネーズは、ショパンによって舞踏曲とは思えない芸術性の高い作品に仕上がっているが。)
ノクターンは、アイルランド人のジョン・フィールドによってピアノ小品のジャンルに用いられるようになったが、ショパンは彼に影響を受けてこのジャンルを作曲するようになったとのこと。

最後に、ショパンのチェロソナタが演奏された。ベートーベンの回で同じようにチェロソナタが演奏されたが、今回はそれとも比較してピアノとの関係をよく聞いてほしいとの話があった。プレイエルのピアノも、現代のピアノとは違ってチェロを過度に打ち負かしたりせず、よい釣り合いを保っている。チェロが主旋律を弾くところ、ピアノが表に出るところ、両者が競うところなど、うまくバランスが取られた演奏になっている。プレイエルのピアノには本来第2響板が備わっているが、440席のみなとみらい小ホールでは残響が効きすぎるので外して使ったそうだ。例えば以前に山手プロムナードコンサートを聴いたべーリックホールなどで演奏したらどうなっただろう、などと想像するのも楽しい。

細かく書かなかったが、レクチャーを行った野本由紀夫氏は次から次へといろいろな資料を紹介し、時間がいくらあっても足りないほどだった。時々「瞬間芸」と称して野本氏自身がピアノを奏いたりして、説明するのが楽しくて仕方がない感じだ。このシリーズでは無理だろうが、また野本先生の話を聴けるチャンスがあると良いなと思った。
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by ika-no-shiokara | 2007-07-15 18:03 | クラシック音楽